職場での人間関係は働く人にどのような影響を与えるか?|理想の人間関係とは

職場での人間関係は良いほうがいい、それは誰しも思うところです。
一方で、「人間関係」という言葉は非常に抽象的です。どういった状態が職場の人間関係として理想なのかきちんと言語化できる方は少ない概念でもあります。
職場は職場、プライベートはプライベートでいいのでは?とも思えますし、どのような状態が望ましいのか分からない人が多いのではないでしょうか。
今回は、職場での人間関係が、働く人のやりがいや生産性にどんな影響を与えるのか。理想の人間関係とはどういった状態なのか。学術的調査や、マネトレの利用者データを分析した結果を交えながら解説します。

職場での人間関係はエンゲージメントに影響を与える

ワークエンゲージメントは、仕事に関連するポジティブで充実した心理状態を指し、活力、熱意、没頭によって特徴づけられ、仕事に向けられた持続的かつ全般的な感情と認知をいいます。

ワークエンゲージメントが高い状態は、個人の健康(肉体的、精神的)及び仕事での生産性に大きくプラスの影響を与えることが数々の研究で明らかになっており、心身の健康、コミットメント、離職の意思、パフォーマンスと深い相関関係があることが分かっています。

社員の健康の観点や、企業の利益が向上し、より優秀な人材が集まる好循環を生むことから近年主要な経営テーマとなっており、数多くの企業が取り組んでいます。
欧米では2000年代に、日本では2010年代から取り組みの機運が高まりましたので、これまでの日本企業のマネジメントにはなかった概念と言えます。

ワークエンゲージメントに影響を与える要素の一つとして「職場での人間関係」が挙げられます。
人間関係が良好な職場では、上司や同僚などメンバー間のコミュニケーションが活発です。
意見交換がしやすく、信頼関係が構築できるため、アイデアや協力、助け合いが生まれやすく、組織の生産性や貢献意識が高まります。
また、周囲の人間関係が良好だと、人はチームの中で働くこと(仕事)にやりがいを感じることができます。
エンゲージメントが高い組織に、良好な人間関係は欠かせません。

人間関係がチームに与える影響

人間関係がチームのパフォーマンスに与える影響の調査は数多くあり、例えばハーバード大学教授のジョージ・エルトン・メイヨー教授によって行われたホーソン実験では、労働意欲が職場の人間関係に影響され、良好な人間関係(仲間意識や誇りが強いグループ)が仕事のモチベーションに影響し生産性がアップすることが確認されました。

また、「上司・先輩・同僚の姿勢」が社員のエンゲージメントに大きく影響を与えます。
例えば、関西福祉科学大学 心理科学部 島井哲志教授のスクール・エンゲージメント(学校が好きで、学業や行事を楽しむこと)の調査では、先生のスクール・エンゲージメントが高くない限り、生徒のエンゲージメントは高まらないという結果となりました。
先生が生徒たちのモデルとして率先して学校に誇りを持ち、教えることを楽しまない限り、多くの生徒は学校に誇りを持てず、学びを楽しんだりしませんでした。
この法則は、職場にもあてはまり、上司や先輩、同僚のエンゲージメントの高さが、社員のエンゲージメントを左右し、特に上司の影響が強いとされます。

マネトレ利用企業においても、エンゲージメントスコアが高い上位20%の組織においては、「仕事やプライベートの相談ができる同僚はいるか?」という質問のスコアも高くなっており、全体平均以下の組織は一つもありませんでした。

これらのことからも分かるように、職場の人間関係が良好だと、メンバーはやりがいを感じ、組織への帰属意識を持ち、心理的な安全性を感じながらチームに貢献しようと頑張る、といった姿が見えてきます。

チームの人間関係が良くないと何が問題なのか

仕事とプライベートをきっちり分けたい人は一定数存在します。
職場はあくまでも仕事をして、お金を稼ぐ場所であると割り切っている人もいるでしょう。

しかし、全員そうだと考えるのは無理があります。エンゲージメントスコアが高い組織で「同僚への信頼」のスコアが一様に高いことから、マネジメントや組織風土によって、メンバーの同僚に対する考え方は変化すると考えるのが自然です。
もし、あなたの組織では割り切った考えが大半だとするならば、そうした考えにさせてしまっている、組織に期待させなくしているのは、マネジャーであるあなたに一定の責任があることは否めません。

また、同僚への信頼が低いケースでは、「心理的安全性」が低い傾向が顕著に見られます。
人間関係が良くないと、仕事においてもお互いに意見が言いにくい状況が伺え、チームとしてのパフォーマンスを引き出すことができません。

職場の人間関係が悪いと、従業員間のコミュニケーションは少なくなります。
結果、新しいアイデアや業務の改善は生まれにくくなります。
連携がスムーズに行われないと、ミスやトラブルを引き起こしやすくなります。
信頼できない集団の中では、人は自分のする仕事にやりがいを持ちにくくなります。
心理的な安全性が無いため同調圧力に抗いにくく、早く帰るといったことにすらストレスを感じます。
精神的な満足度が低いので、体の健康や心のバランスを崩すことにも繋がります。
離職率が上がり、生産性も下がるため、休職や退職などにより、メンバーの負担が増えることでさらにストレスがかかる負のスパイラルに陥るかもしれません。

部下の同僚に対する声は、同時にあなたに対する声でもある

もしあなたが部下と対話する中で、「同僚にプライベートの話なんかしたくない」「同僚と関係を深めたいと思わない」というメンバーからの声があれば、チームの人間関係の悪さを如実に表していると同時に、あなたに対する部下からの声でもあります。
信頼関係が構築できていない相手に、プライベートを晒したくない、相手に興味を持とうと思わないと考えるのは当然のことです。
組織のメンバーが同僚に興味を持たない考えに至ったのは、上司の組織運営においての考え方や、メンバーに対して接してきた態度、組織文化づくりの結果でもあります。


相手を知ろうとしないということは、相手を大切に思う気持ちがないということです。
自分を知られたくないなら、それは相手に期待していないということです。
お互いを知らなくても良いと考える組織は、お互いを大切にしていない組織です。
そのような組織にいて、社員は幸福を感じるでしょうか?
社員は仕事をこなしても、役割以上頑張ろうとは思わないでしょう。
その組織の一員であることに誇りは持てませんし、働くことにやりがいも感じにくいはずです。
自分のことばかり優先し、組織に貢献する気持ちのないメンバーばかりになってしまいます。

良好な人間関係では、自然にプライベートな会話が生まれる

職場での人間関係が良好なチームは、仕事だけでなくプライベートも気軽に相談できる関係性が築けていることが分かっています。

一方で、仕事は仕事、プライベートはプライベートで良いのでは?と思われるかもしれません。
しかし、仕事とプライベートは分断され離れたものではなく、2つは繋がって存在し、ある程度重なっています。親の介護や産前産後などは、プライベートが仕事に影響を与える典型例です。

子供の学芸会だから、親の病院への付き添いで、結婚記念日で、ちょっと体調が悪いから、旅行に行きたいから、生理でお腹が痛いから、妻が妊娠しているから、失恋・離婚して・・・など、プライベートの事情で仕事に影響が出ることは多々あります。

職場での人間関係が良好なチームは、このような場面で、「手伝ってほしい、休みたい、早く帰りたい、変わってほしい、在宅勤務にしたい」と相談できる、「手伝おうか?変わろうか?休みなよ、早く帰りなよ、在宅勤務にしなよ」と助け合いや思いやりが生まれます。
こうした状態は、働く人にとっての満足度や、帰属意識に大きくプラスの影響を与えます。

注意すべきは、プライベートの相談をすることで組織が良くなる訳ではなく、エンゲージメントが高い組織ではメンバー同士の信頼関係があり、信頼関係がある組織では気兼ねなく仕事やプライベートの相談ができる状態になるということです。
もしあなたの組織がそうでないならば、良好な人間関係が築けていない状況だと言えます。

同僚への信頼が生まれる風土づくりのために上司ができること

同僚への信頼が生まれる風土のために、上司ができることは沢山あります。
距離を縮めたいからといって、休日の予定を聞いたり、頻繁に飲み会に誘ったり、無理をして付き合わせるのは不適切です。

職場における同僚への信頼は、別のところで十分つくることが可能です。
各々が仕事をしっかりこなすこと、上司としてそうした状態をつくることで信頼は生まれます。
また、上司が組織内のコミュニケーションが活発になる風土づくりをしていくことでも生まれます。

例えば、毎朝あいさつを心がける、積極的に褒める、見た目に清潔感をもたせる、自分について知ってもらおうと努力する、メンバーの良い仕事をみんなに共有する、相手と同じ言葉や表現を使う、自分の欲しい答えに部下を誘導しない、手を止め相手の話をしっかり聞く、相手の話に共感する、大差ない場合は積極的に部下の判断を採用する、チームMTGで意見が活発に出るようファシリテーションの勉強をする、メンバーの仕事に対する考え方や価値観を知ろうとする、家族や趣味を知ろうとする、相手を尊重した態度や話し方をする、など沢山あります。

上記で挙げたことは、「同僚への信頼」に直接働けるものではありませんが、さまざまな要因で間接的に組織の信頼は高まっていきます。
メンバーは、あまり信頼していない上司に質問されても本音や内面について話したくはありません。面倒くさいから本心と違っても上司に同調します。上司に尊敬も期待もしないので、関係性の改善に働きかけたくても部下の協力を得られません。
普段の上司の行動は、人間関係が良好な組織をつくっていくために、非常に重要な意味を持ちます。

職場の良好な人間関係は社員のやりがいに大きくプラスに働く

仕事とプライベートは完全には分けられません。
職場における良好な人間関係とは、上司や同僚と仕事やプライベートの相談が気兼ねなくできる状態、あるいは仕事とプライベートの両方がストレスなく一定程度交わっている状態といえます。

仕事とプライベートをきっちり分けたい人が一定数いるのは当然です。
一方で、人は良好な人間関係の中でより、一生懸命働き、やりがいを感じるのも事実です。
心理学で有名な「マズローの欲求5段階説」においては、友人や家庭、会社から受け入れられたいと願う「社会的欲求」、他者から尊敬されたい、認められたいと願う「承認欲求」は人の根源的な欲求の5つに定義されています。
きっちり分けたいと言っている部下も、信頼できる仲間の中で働いたことがなく期待しなくなっているだけかもしれません。
転職前の会社では飲み会やプライベートな付き合いは嫌でストレスだったけど、転職後の会社では楽しくて積極的に参加しているというケースはよく聞く話です。

仕事にやりがいを持つにあたって、大多数の人にとって職場の人間関係は重要な意味を持ちます。
これまでの学術的調査や、マネトレ利用者のデータを分析した結果として、職場の人間関係を軽視した先に「上司や同僚が信頼され、メンバーがやりがいを持って満足して働き、パフォーマンスが高い組織」というような理想の状態をつくれる可能性はまずない、ということは確かなようです。

▶ マネトレは、リーダーやマネジャーのマネジメント力を高めることで、組織のさまざまな課題を解決します。「コーチ」と「マネジメントナレッジ」を提供する新しいマネジャー育成サービスです。

なぜ人と組織は変われないのか?|変化を阻むメカニズムとその対処法

なぜ人と組織は変われないのか?|変化を阻むメカニズムとその対処法

どうして人や組織は変わってくれないのか?なぜ自分はより良い上司に変われないのか?
部下に対しても、組織に対しても、自分自身に対しても、マネジメント経験者であれば誰しも一度は思ったことがあるのではないでしょうか。
こうした問題を乗り越えるためには、その背景やロジックを理解し、それに対処するために考え方や行動を変える必要があります。

今回は、米ハーバード大学教授で発達心理学と教育学の権威である、ロバート・キーガンとリサ・ラスコウ・レイヒーによって書かれた『Immunity to Change: How to Overcome It and Unlock the Potential in Yourself and Your Organization(邦題:なぜ人と組織は変われないのか?)』から、そうした事象のメカニズムとその対処法について解説します。

人には変革を妨げる免疫機能が備わっている|人は相反する目標を同時に持つことができる

人は本心からやりたいと思っていることと、実際にできることに大きな溝があります。
コーチング研修を受けたけれど、1ヶ月後には元のマネジメントスタイルに戻ってしまった。
目標設定のミーティングで部下が頑張りますと言ってやる気を見せていたが、側から見ると以前と変わらない。
経営陣から組織の変革が大々的に叫ばれたけれど、1年経ったが評価も人員配置も登用も何も変わらず組織にも変化はない等、こうした場面は日常よく目にします。
すると、私たちはどうしても個人を責めたり、組織を責めたりしてしまいがちです。

しかし、明らかに良い変化であっても、変化すること自体が人にとって非常に難しいことであり、ほとんどの場合、個人や組織のやる気や怠慢によるものではありません。

変革がうまくいかないのは、本人がそれを本気で目指していないからではない。心臓を病んでいる人が禁煙の目標を貫けないとしても、その人は「生きたい」と本気で思っていないわけではないだろう。
変革を実現できないのは、二つの相反する目標の両方を本気で達成したいからなのだ。人間は、矛盾が服を着て歩いているようなもの。そこに、問題の本当の原因がある。
※引用:『なぜ人と組織は変われないのか?』ロバート・キーガン,リサ・ラスコウ・レイヒー著

私たちは、自分を変えたいと思っているけれど、同時に自分の核となる部分を守りたいという思いも抱いています。
人は矛盾している生き物であり変革を阻む免疫機能が備わっているため、変わりたいという表面的な目標の裏に、自分でも感知していない変わりたくないという裏の目標(固定観念)が存在しているからです。

その結果、目標を達成しようとしても、裏の目標により阻害行動が生まれてしまい、中々変わることができません。
この人が持つ自分自身が望んでいる目標の達成を妨げてしまうメカニズム(変革をはばむ免疫機能)は非常にやっかいです。

表に現れない本音の部分を明らかにしなければ変われない

例えば、あなたはマネジャーで、チームとして高い成果を上げたいと考えています。そのためには、自分のマネジメント手法を改めて、よりメンバーをモチベートできるマネジャーに変わりたいと目標を立てました。

しかし、本気でそう思っているものの、なかなかうまく実行に至らず、チームの成績もパッとしません。その時、下記のような状態が発生しています。
※本書ではこれを免疫マップと呼びます

なぜ人と組織は変われないのか?|変化を阻むメカニズムとその対処法

この場合、無意識の本音の部分である「裏の目標」と、さらに裏の目標を生み出す自分にとって無意識レベルで当たり前になっている「強力な固定観念」が改善目標の達成を阻む行動を生みだしてしまいます。
本気で変わろうと思っているのだけれど、それとは違う行動をどうしても取ってしまう
のです。

このケースでいえば、上司という立場であることがアイデンティティの一部であり、その立場により自分自身の価値を感じ、自尊心を満たしている。
そうした固定観念があると、部下より有利な立場にいたい、それを認識していたいという本音の部分が無意識に生まれ、そうした状態を維持する阻害行動が発生します。

自分は部下より優れていると本音では思っていると、部下のやることなすこと、「こうした方が上手くいく!」と思ってしまい、自分が考える最善の方法で実行させたいと思う気持ちが生まれ、指摘せずにはいられなくなります。

私たちは誓いを立てるとき、なくすべき「悪い行動」と増やすべき「よい行動」にばかり目を向けます。「改善目標」を立て、それを実現するための「よい行動」を考え、「悪い行動」をやめよう、と決心します。

しかし、強力な阻害行動を取らせる原因である、表に現れている価値観とはまた違う価値観(矛盾した価値観)である裏の目標、固定観念を明らかにしないかぎり、問題を解決することはできません。
裏の目標を明らかにし、自己認知し改善しなければ、変わることはできないのです。

変革のためのステップ|免疫MAPの作り方

先に挙げた図(免疫MAP)を埋めていく作業を行いましょう。具体的には下記4ステップになります。

免疫MAPの作り方
  1. 「改善目標」を決める。
  2. 「阻害行動」を徹底的に洗い出す。
  3. 「裏の目標」をあぶりだす。
  4. 「強力な固定観念」を掘り起こす。

第1に、改善目標を立てます。これは皆さん慣れており、すんなりとできると思います。
次に、「阻害行動」を洗い出します。

阻害行動を洗い出す

どのような行動を取っているせいで、あるいはどのような行動を取っていないせいで、「改善目標」の達成が妨げられているのかを明らかにします。
ここに書き込む要素はすべて、改善目標を達成する足を引っ張るものでなくてはなりません。
ここでは、好材料の洗い出しは目的としておらず、意図せずして目標達成を妨げている行動はなにかという点のみ洗い出します。

リストアップする阻害行動は、具体的であればあるほど好ましいです。
例えば「いらいらしてしまう」「部下が違う意見を言うと居心地悪く感じてしまう」と書くかとします。
しかし、これらは阻害行動として理想的とは言えません。いずれも心理状態を表現していて、行動を表現していないからです。
そういういらだちや、居心地の悪さのせいで、どのような行動を取ってしまうのか?あるいは、どのような行動が取れなくなるか?まで深掘りする必要があります。

ここに書き込む要素が多いほど、そして記載が率直であるほど、最終的な効果は高まります。
記した内容は誰に読ませるわけでもありませんので、自分で自分に対する密告者になったつもりで、徹底的に自己点検をしましょう。

この段階では、どうしてそのような行動を取るのかは問題にしなくて良く、解決策を考える必要もありません。
まずは、自分の取っている行動を正直に詳しく記すことに専念しましょう。

裏の目標をあぶりだす

裏の目標はすべて、自己防衛という目的との関わりが明確でなくてはなりません。特定の不安と強く結びついている必要があります。

例えば「部下より有利な立場にいたい」という裏の目標を書き込んだとしても、自己防衛との関わりが明確ではありません。どういう危険から自分を守りたいのかが見えてこないからです。
「部下より有利な立場にいたい。家庭では妻が強く子供にも尊敬されておらず自分の立場が低い。せめて仕事では自分の価値を誇示したい、思い通りに進めたい。」というところまで掘り下げて書くべきです。

また、裏の目標を達成しようとする場合、合理的に考えて、阻害行動のうちのいずれか(もしくは全部)が必要とされなくてはなりません。
「Xという目標をいだいているのであれば、Yという行動を取るだろう」という合理的な関係が成り立つ必要があります。

リストアップしていくと、裏の目標を達成するうえで阻害行動がきわめて重要な役割を果たしていることが理解でき、阻害行動を改めようとするだけでは改善目標を達成できないと納得できるはずです。
また、裏の目標を見ることで、自分が二つの目標(相反する価値観)の間でジレンマに陥っていることを実感できるはずです。

強力な固定観念を掘り起こす

ゴールに到達できないのは、そこに向けて真剣に進もうとしても、それと同じくらい強い力で押し戻されるからだ。その点を認識する必要がある。
矛盾して聞こえるかもしれないが、変革への道は、変革を妨げているのが自分自身の内面のシステムなのだと十分に理解してはじめて開けてくる。
※引用:『なぜ人と組織は変われないのか?』ロバート・キーガン,リサ・ラスコウ・レイヒー著

十分に裏の目標が明らかになったら、対象になりうるような強力な固定観念を掘り起こし、リストアップします。
また、強力な固定観念の一つひとつについて、いつ、その固定観念が生まれたのか?その後、どういう変遷をたどってきたのか?を考えます。

変革に向かうための具体的な方法

(1)阻害行動を改める

(2)裏の目標に反する行動を取る

強力な固定観念のもとで「取るべきでない」とされる行動をあえて実行し、どういう結果を招くかを確認します。その結果に照らして、自らが持っているその固定観念が本当に正しいかどうかを検証します。

(3)固定観念に直接切り込む

その固定観念の本質をなす「もし〜なら、〜である」という論理の妥当性を検証するためにはどういう実験やデータが必要かを考えて、それを実行します。
また、その固定観念をくつがえす材料がないかどうかを探すことも良いでしょう。

人や組織が変われないのは意志の弱さが原因ではない

いかがでしたでしょうか?
これまで目標が容易に達成できないのは、その人の意志の弱さが原因ではなく、「強力な固定観念」や、それに起因する「裏の目標」といった自分の中に潜んでいる改善目標とは別の価値観により、「阻害行動」という別の価値観にとってきわめて理想的で有効な行動を無意識に実行しているということにあります。
これは個人の集まりである組織においても同様のメカニズムが発生しています。

「変わりたいと思っているのに変われない」誰しも思い当たる節があるかと思います。

メカニズムについては深く納得したものの、今回ご紹介した裏の目標や固定観念をリストアップする作業を実際やってみると、ひどく居心地が悪く、リストを消し去りたいと思うような感情が生まれるかもしれません。

しかし、そうした作業は、自分自身が気づいていなかった固定観念の発見や、変化をもたらすきっかけになるはずです。
もし変わりたいと思っても変われない人や組織があるのであれば、ぜひ試してみてください。

※参考:『なぜ人と組織は変われないのか?』ロバート・キーガン, リサ・ラスコウ・レイヒー著

▶ マネトレは、リーダーやマネジャーのマネジメント力を高めることで、組織のさまざまな課題を解決します。「コーチ」と「マネジメントナレッジ」を提供する新しいマネジャー育成サービスです。

パウエル国務長官に学ぶリーダーを目指す人の心得

リーダーを目指す人の心得|コリン・パウエル著

先日2021年10月18日に、米国の元国務長官コリン・パウエル氏が84歳でこの世を去りました。
パウエル氏は、ジャマイカ系移民の子としてニューヨーク市のハーレム地区に生まれ、黒人として初めて米国4軍のトップである統合参謀本部議長や国務長官を務めた経歴の持ち主です。
彼が生まれた時代は黒人への人種差別はまだ根強く、バラク・オバマ元大統領以前に、黒人でここまでの高みにたどり着いた人はいませんでした。そんなパウエル氏の優れたリーダーシップは高く評価されており、党派を超えて尊敬を集めた人物でもあります。

今回は、そんな彼が晩年にリーダーシップについて書いた自伝的著作である『It Worked for Me: In Life and Leadership(邦題: リーダーを目指す人の心得)』から、ビジネスパーソンにも役立つリーダーシップの心得についてご紹介します。

怒っていいが、その上で怒りをコントロールし乗り越える

激怒や失望のすばらしい点は、それを乗り越えてゆくというところにある。怒ったら、さっさと怒りを乗り越え、自制心を失わないように心がけよう。

アンガーマネジメントの重要性は一般に広く知られていますが、一方で怒りのコントロールができていないマネジャーは多くいます。パウエル氏でさえ、怒りのコントロールは常に意識していたとのことで、アンガーマネジメントは難しくも重要なスキルと言えるでしょう。

(参考)▶アンガーマネジメントとは|怒りに対処する方法

人格と意見を混同してはならない

人格と意見を混同してはいけません。さもないと、意見が却下された時自分も地に落ちてしまいます。
パウエル氏は下記のように部下に対していつも伝えていたそうです。

私に反論しろ。心の底から反論しろ。自分が正しく、私がまちがった道を選んでいると私に納得させろ。それが君たちの義務だ。そのために君たちがいるのだから。私に反論されたからといって怖気づかないこと。
ただし、議論は尽くしたとして私が決定を下す瞬間がいつかくる。そうしたら、自分の考えであるかのように私の決定を実行しろ。

日本人は、上司も部下も人格と意見の切り分けができていない人が多い印象です。教育過程でディベート文化がないことに起因するのではとも言われますが、ある事柄に対する意見対立がそのまま人の対立(人間関係の悪化)になってしまいがちです。
しかし、人格と意見を切り分け、部下が積極的に意見を言える環境をリーダーがつくることは、学習する組織をつくる上で非常に重要です。

チーム研究の第一人者であるハーバード・ビジネススクール教授のエイミー・C・エドモンドソン氏が、著書『チームが機能するとはどういうことか』で述べたところによると、チーミング(絶えずチームワークを模索し、実践し続けること)の成功には四つの行動が必要とされます。

  1. はっきり意見を言うこと
  2. 協働すること
  3. 試みること
  4. 省察(自分自身をかえりみて、そのよしあしを考えること)すること

チーミングの効果は、大きく2つあり「組織のパフォーマンスが上がること」「魅力とやりがいあふれる職場環境になること」とされます。
そして、その過程は必ずチーム内に緊張や対立を生むため、対立がチーミングにとって望ましいものであることを理解していないリーダーや、対立に取り組むうえで必要なスキルを学ばないリーダーは、失敗する運命にあると結論づけています。
そうした意味でも、パウエル氏が述べた「人格と意見を混同してはならない」とするリーダーの心得は、非常に重要な心得と言えます。

リーダーは小さなことまで感じる努力をする必要がある

最終的な成否を左右するのは、たくさんの小さなことだ。リーダーは小さなことまで感じられなければならない。小さなことが起きる組織の最深部がどうなっているのかまで感じられなければならない。
出世すればするほど、虚飾とスタッフに囲まれて他が見えなくなる。現場で何が起きているのか、確認する必要性が高まるのだ。ひとつの方法は階下の現場に降りること。これから行くなど予告をしてはならない。予告などすれば、大急ぎで掃除をされたり必死で準備をされるのが落ちだ。
部下というものは小さなことばかりの世界で生きている。リーダーは公式でも非公式でもなにがしかの方法でその世界を把握しなければならない。

立場が上がるほど現場が見えなくなります。これは致し方ありません。
しかし、優れたリーダーになるには、現場を知ろうとする努力をし、決断するにあたって小さなことまで理解する必要があります。報告を待つだけでなく、積極的にコミュニケーションを取り、末端の組織まで知ろうとする姿勢が必要です。
マネトレ利用者である企業の中間管理職に対する調査でも、部下のエンゲージメントが低い上司は、部下とのコミュニケーション量が少ない(上司本人も重要視しておらず定期的な1on1等のコミュニケーションを取る場を作っていない)傾向が顕著に見られます。コミュニケーション量を軽視してはいけません。

功績は分け合う

大切なのは気持ちを表す行動だ。勲章やストックオプション、昇進、ボーナス、昇給なども悪く無い。だが、直接触れなければ部下の心を動かすことはできない。電子メールをばらまくようなやり方ではなく、優しい一言をかける。背中をぽんとたたく。よくやったと褒めるといったことを1対1でしなければならない。

自分の功績を上げることばかり気にして、部下の功績をさも自分の功績のように吹聴する上司もいますが、それではリーダーとして周囲からの信頼を得ることはできません。部下の主体性を引き出し、チームのパフォーマンスを引き上げるには、リーダーの積極的な部下に対する承認称賛の行動は欠かせません。
デジタルな時代だからこその、パウエル氏流のアナログな承認称賛をぜひ取り入れてみましょう。

(参考)▶承認・称賛の文化醸成|メンバー同士で承認・称賛し合うチームの作り方

必要だと思う以上に人に親切にする

親切で思いやりのある人と思われていれば、厳しい決断をしても受け入れてもらいやすい。

リーダーはみんなが賛成する判断ばかり出来ませんし、時には厳しい判断も必要になります。
そんな時には、普段からの行動、態度が物を言います。リーダーがリーダーとして力を発揮するためには、普段の部下に対する行動、態度がとても重要です。

パウエル氏のリーダーシップ論は多くの研究結果と通ずるものがある

いかがでしたでしょうか?
今回はパウエル氏のリーダーシップ論の一部をご紹介しましたが、彼が人生経験の中で培ってきたリーダーシップ論は、目新しい独自のモノというより、多くのリーダーシップやチームビルディングの研究によって明らかになっている事柄と共通するところが多く見られました。
既知のリーダーシップに関する事実を着実に実行したリーダーであるとも言える彼が、黒人というマイノリティの立場からここまで高い名声を得たことを考えると、言われみると当たり前のことだけれど、実践するのが難しいのがリーダーシップなのかもしれません。

今回取り上げた内容はすぐにでも実行できることばかりです。ぜひ明日からパウエル氏のリーダーシップ論を実践してみてください。

※参考:『リーダーを目指す人の心得』コリン・パウエル著

▶ マネトレは、リーダーやマネジャーのマネジメント力を高めることで、組織のさまざまな課題を解決します。「コーチ」と「マネジメントナレッジ」を提供する新しいマネジャー育成サービスです。