アンガーマネジメントとは|怒りに対処する方法

怒りの感情のコントロールはマネジメントする上では必須のスキルです。部下に対して発露する怒りは、パワハラになるリスクが極めて高い行為でもあります。
一方で、旧来の日本型マネジメントは、怒りを部下にぶつけることを問題としてこなかったため、管理職自身はそういった怒りをぶつけられて育った人であり、自身の怒りのマネジメントが下手な傾向にあります。
上司が嫌だったらすぐ辞めてしまう欧米と比べ、転職が一般的でなかった日本独特の雇用慣行、文化的な背景から、長年放置されてきた側面も大きいでしょう。

転職支援サービス最大手のリクナビネクストによると、転職者の本音の転職理由の第1位は上司です。2位の労働時間・環境、3位の同僚との人間関係と比べても倍近い数値で、いかにメンバーにとって上司が重要かが分かります。職場環境の改善より、上司のマネジメントを改善した方が離職には効果がありそうです。
※参考:https://next.rikunabi.com/tenshokuknowhow/archives/4982/

怒りのマネジメントが下手な上司で、メンバーから信頼を得ていることはまずありません(本人はその自覚がないことが多いですが)。
今回は、マネジャーにとっての必須スキル「アンガーマネジメント」について解説します。

アンガーマネジメントとは

アンガーマネジメントとは

アンガーマネジメントとは、怒りやイライラといった「怒りの感情をコントロールすること」です。
1970年代のアメリカで生まれ、怒りの感情と上手に付き合うための方法として広く普及しました。

アンガーマネジメントは、怒りを無理に抑えつけたり我慢したりすることではありません。何でもかんでも怒らないこと、怒らない努力ではありません。怒りという感情を取り除く必要はなく、それは誰もが持っているものです。
怒らなくなることではなく、怒りの感情を認識し、怒る必要がある部分で上手に怒り、怒る必要がないときには怒らないようになる。
すなわち、怒りを適切に切り分けることによって、怒りをコントロールすることがアンガーマネジメントです。

ただし、職場における怒りは、パワハラやモラハラといったハラスメントと極めて受け取られやすい行為ですので注意が必要です。
ハラスメントは、行為者がどう思っているのかは関係なく、相手が不快な感情を抱けばハラスメントになります。したがって、本人の意図とは異なっても、怒りの感情からパワハラ・モラハラを招いてしまう危険性があります。
▶ 参考:ハラスメントとは?|職場におけるハラスメントの実態

アンガーマネジメントは、人間関係や仕事の生産性にもポジティブな影響を与えます。そのため、企業の管理職研修や、夫婦セラピーやカウンセリング、アスリートのメンタルトレーニングに利用され、言葉として広く知られています。

怒りのメカニズム

そもそもなぜ人は怒ってしまうのでしょうか。
アンガーマネジメントでは、怒りの感情は二次感情と言われます。つまり、怒りの感情というのは単体では存在しない感情とされます。
一次感情と言われるものは、怒りという感情が湧き出す前の「不安、嫌だ、寂しい、悲しい、つらい」といったネガティブな感情です。

  • 一次感情:苛立ち、不安、寂しい、悲しい、つらい、心配、苦しい、疲れた、など
  • 二次感情:怒り

一次感情が許容範囲を超えてしまうと、二次感情の怒りという形で発散しようとします。
分かりやすく言い換えると、コップに一次感情を注いでいくと、溢れて二次感情の怒りに変わるというわけです。
コップの大きさは人それぞれなので、コップが小さい人はしょっちゅう怒っています。逆にコップが大きい人は怒りにくいです。

また、このコップには睡眠が大きく関係しているとされており、基本的によい睡眠がとれればコップの水は減ります。朝からすごいイライラするという日は、朝からコップに水が溜まっている状態です。
健康は感情をコントロールする上でとても重要とされます。怒りっぽい人は、きちんと睡眠を取るように心がけましょう。

怒り方の癖/アンガーマネジメント診断

人の怒りには傾向(癖)があり、以下の6つに分けることができます。怒りの癖は決して悪いことではありません。この6つの項目は全ての人が持っており、人によって強弱があります。
怒り方の癖は、結婚や転職といったライフイベントや、忙しい、ストレスが高いといった環境等でも変化し、固定化されたものではありません。その時々によって強く出たり、弱く出たり、と変化します。

自分がどんなことにイライラしたり怒ったりするのかという怒りの癖が分かると、自分自身や他者と上手に付き合う上で役に立ちます。
 

① 公明正大タイプ
自分が正しいと思うことや、正義といった信念を押し通すタイプです。使命感に燃え、信じることに脇目もふらず突き進んでいく性質を持っています。
  
② 博学多才タイプ
何事にも白黒つけたがる傾向があります。好き嫌い、敵味方、良い悪いなどどちらか極端にものごとを考えるタイプです。また完璧主義でもあり、自分が納得しないと始められない、終われないという特徴も持っています。
 
③ 天真爛漫タイプ
思ったことを思った通りに発言して行動するタイプです。自分の主張を素直に表現して行動できる人で、統率力に長けています。強いリーダーシップを発揮することができるでしょう。
 
④ 外柔内剛タイプ
表面は穏やかに見られることが多いのですが、内には確固たる揺るがない自分を持っています。一度決めたことは誰に言われても譲らない強さを持った人です。
 
⑤ 威風堂々タイプ
自分に自信を持っています。自分を自分自身で評価することができ、自分を信じて前向きに進む力が高い人です。
 
⑥ 用心堅固タイプ
心を開きにくく人を簡単に信用しないので、スムーズに人間関係をつくれないことがあります。逆に誰とでもある程度の距離をとって接するため、八方美人と思われます。

より詳細を知りたい方は、下記日本アンガーマネジメント協会のサイトより無料で診断をすることができます。
参考:無料アンガーマネジメント診断 https://www.angermanagement.co.jp/test

自分の怒りに対処する方法|アンガーマネジメント①

誰もがイライラしたくないと思うし、怒りたくはないと思っていますが、「怒り」という感情を取り除くとか、怒るのをやめよう、とは考えないでください。怒りという感情自体を取り除くことは絶対にできません。
自分の怒りをマネジメントするためには、次の4つを意識してコントロールしていくことが重要になります。

① 衝動

6秒ルールという言葉を聞いたことがある人も多いと思います。
怒りに対しては、「反射をしない」というのが非常に重要になります。
怒りのピークといわれる最初の6秒間を乗り切ることができれば、衝動的な言動や行動を抑えられるとされます。
イラっとしたら自分の中で6秒数え待ちましょう。今よりはうまく怒りの感情と付き合えるようになるはずです。

② 思考

「するべき」、「こうあるべき」という思考を捨てましょう。
人は自分が信じている「~すべき」「~すべきでない」が目の前で裏切られたとき怒ります。例えば、「仕事はこうするべき」と思っていて、部下が仕事をそうしなかったら腹が立ちます。本当の怒る原因は、「誰か」や「出来事」という自分の外にあるもの自体にあるのではなく、全部自分の中にあります。自分の中にあるからコントロールが可能です。
人はそれぞれ自分の価値観が異なります。
その価値観の違いを理解した上で、自分の価値観だけに狭めず、自分の「〜すべき」を広げる、他の「〜すべき」を許容していくことで、必要以上に怒りを感じることがなくなります。

③ 行動

自分でコントロールできることのみに注力することが重要です。自分の行動によって変えられないものに怒りの感情を持ってもただイライラするだけで無駄なエネルギーになってしまいます。
自分でコントロールできることのみに目を向け、自分でコントロールできないことに対してはエネルギーを振り向けないことが重要です。

④ 言語能力

言葉の能力の高い人は、怒りの感情のコントロールがうまく、逆に言語能力の低い人は、怒りの感情のコントロールが苦手とされます。そのため、言語能力がまだ低い子供は感情のコントロールが苦手です。
言語能力が低い人は、怒りの感情を言語(表現)として言い表せないため、強弱で怒りを表します。机を叩く、怒鳴るなどです。言葉で表現できないため、ボリュームで強弱をつけようとするのです。
言葉で表現できるようになれば、自分を客観視することができ、怒りを抑えることができます。言葉は理性です。怒りっぽい人は、言葉を増やす努力が必要です。

他人の怒りに対処する方法|アンガーマネジメント②

怒っている人と向き合う際は、怒る前に感じていた第一次感情に目を向けます。
怒りは二次感情ですので、怒りそのものに目を向けても原因の解決が出来ません。
怒りそのものに目を向けるのではなく、その人が怒りの前に感じていた一次感情を想像します。
苦しいから怒っているのか、不安だから起こっているのか、納得できないから怒っているのか。何を感じたから怒ったのか、怒る前に何を感じていたのか考えます。
それを理解すると、怒っている人から、あなたに対する安心感や信頼感が上がります。
怒ることは一次感情を溢れさせているわけですから、一次感情に目を向けその解消を行いましょう。

怒りは万能感情とも呼ばれ、人は悲しいとか、辛いとなった時に、怒ることによって他の感情をごまかしたり、忘れてたりことができます。
万能感情に頼りすぎてしまい、どんなことを感じてもすぐ怒りに転化することが癖になっている人も少なからず存在します。 そうしたものなんだと理解し、冷静に対処しましょう。

アンガーマネジメントのメリット/職場において

アンガーマネジメントを身につけ怒りの感情をコントロールできるようになることで、職場において下記のようなメリットがあります。

  • 自分の気持ちを相手が受け入れやすい形で表現できる
  • 怒りを感じる頻度が減ることで、ストレスが減少する
  • 仕事の生産性が上がる
  • ハラスメントのリスクが減少する
  • 意思伝達がスムーズになり、コミュニケーションが円滑になる
  • 怒ること以外の適切な解決策を見つけることで、部下への教育や指導の質が向上する

アンガーマネジメントが求められる背景/必要性

今、アンガーマネジメントが求められる背景に、価値観の多様化や働き方改革があります。
人は価値観やライフスタイルが異なるのは当たり前になり、それを認め合おうとする社会へと変わってきています。テクノロジーの急激な進歩やグローバル化の流れもあり、世代間での価値観や考え方は大きく異っています。
また、社会全体がパワハラやセクハラなどのハラスメント防止に力を入れ始めたこともあります。
実際、部下のマネジメントに悩む管理職が増えています。
今管理職の人の多くは、自分が新人時代に先輩や上司から教育を受けてきたのと同じように叱ると、本人は教育のつもりでも部下や周りからパワハラと言われてしまいます。
当時先輩や上司から自分が教わった方法や価値観が通じなくなってきているのです。

アンガーマネジメントによって自分の怒りの感情に気づけるようになり、怒りの感情をうまくコントロール出来るようになれば、不要な怒りはなくなります。
仮に怒る必要がある場合にも、自分の気持ちや考えを適切な言葉で部下(相手)に伝えられるようになることで、職場でもプライベートにおいてもより良い人間関係を築けるようになるはずです。

仕事はするが勤務態度に問題がある社員への対応をどうすればよいか?

勤務態度に問題のある社員への対処

任せられた仕事はするけれど、発言や態度に問題があり、チームに悪影響を与えている社員がいるがどうすればよいか?という相談をマネジャーから時どきいただきます。
当該社員は、「仕事はちゃんとしてるからいいでしょ」という理屈で、仕事はちゃんとしているから上司として強く言えず、言うことを聞かなくて困っているという構図です。
今回は実際の事例を題材に、通常の指導ではどうにもならない社員が発生した際の対処法について解説します。

お悩み事例:仕事はしているからいいでしょ、という部下を持つ管理職からの相談

マネジメントで悩んでいる社員がおりご相談です。
プレイヤーとしてある程度自走力、責任感をもって業務にあたる点は貴重ではあるのですが、自己中心的な言動から、チームへの悪影響が目立っています。

具体的には下記のような態度です。
・短慮、否定的な発言、行動による周囲との軋轢
・他のメンバーに対する攻撃的な言動
・キャラクターが固定化しており開き直っていて、他者の意見を受け入れない
・自分の価値観に照らして不要と判断したものは無視する(定期的な1on1、チームの決め事、注意や指摘)
・自分やその上司からの指摘に対して、表面的には従う素振りを見せるが実際は従わない

問題社員を放置してはいけない

日本ではクビにできないからどうしようもない。そのように思い半ばあきらめている管理職の方も多いかと思います。
当の社員も、どうせクビにはならないと高をくくっているのかもしれません。
しかし、問題社員がいた場合に、その人が周りに与える悪影響は無視できません。
そのような発言はメンバーの士気を下げます。 そのような人が、自分と給与が変わらない、賞与も変わらない、では周りの頑張っている人の不満に繋がります。

本人が変わろうとしなくとも、上司はそれを許してはならないのです。
では、どうやって問題社員に対応すれば良いのでしょうか?

大前提|勤務態度についても会社として是正を求めて良い

今回の相談のような振る舞いは、会社としての価値観や社員に求める「コンピテンシー(行動特性)」に反した言動と思います。
実態としてコンピテンシーが意識されているかしないかは別にして、多くの会社では、社員に求める姿勢・マインド、組織貢献といった内容がすでに評価軸として設定されているはずです。
※もし設定していない会社があれば設定しましょう

コンピテンシーに反した言動を会社として認めず、是正を求めることは何ら問題のないことであり、降格も含めたドラスティックな評価の運用等は合理的と認められます。

問題社員に対処するステップ8つ

①本人が真剣に捉えざるを得ない場を設定する

真剣に取り合わない人に対して、問題と向き合わせるのは非常に難しい行為です。
今回のケースのように、既に上司から何度も本人に指摘している現状を鑑みると、通常の指導の中でこれを打開するのは困難です。
当の本人がプレッシャーを感じるレベルの上司も含めた真剣なミーティングの場を設定し、本人が逃げられない(向き合わざるを得ない)状況を作りましょう。

本人がミーティングを避けようとする可能性もありますが、内容を明示し業務に関する指示であれば(業務命令と認識させる)、従業員は業務指示として原則従う義務があります。
リスケジュール等を繰り返すようであれば業務命令違反であり懲戒事案にあたります(それを理由に降格や解雇が可能)ので、記録を残しておきましょう。

②ミーティング内容の詳細について上司に事前に共有し合意を得る

何について是正を求めるのか、その項目についてあなたの判断は会社としても(上長としても)同じか、確認しておく必要があります。

③ミーティングでの役割を決めておく

直属の上司がメインで話し、それをさらに上長がサポートする形が最も話しやすいと思いますが、そうした役割分担も事前に共有しましょう。

後述の項目の※印の項目ついては、出席者にも共有・お願いしておきましょう)

④相手が主張するであろう内容に対する反論を準備しておく

当該社員が主張するであろう内容に関しては、事前にシミュレーションしておきましょう。
こちらは準備ができて、相手は準備できないので、シミュレーションはミーティングの主導権を持って進行するために重要です。

⑤ミーティングではまずは相手の主張を聞き出す※

問題だと思っている言動に関して、どうしてそのようなことを正当化するのか、相手の主張を聞き出しましょう。そして問い(どうして?なぜ?等)で深堀りしましょう。
たいてい矛盾している、正当性がない主張なので、本人に話させることで話すうちに本人も問題行動がまずい言動であることを認識していきます。
決して詰めてはいけません。そうした対応をしてしまうと、本人は黙ってしまい対話を拒否されてしまいます。分かってないのに「分かりました、もういいですか」等。
聞く態度を忘れずに質問をし、しかし質問へ回答することは逃さないようにしましょう。
業務内のミーティングでの指示ですので、質問への回答を求めることはなんら問題ありません。

⑥厳しく改善を促すのは本人の主張を聞き出し終わった後で※

はじめから厳しく改善を指摘すると、本人は押し黙ってしまってしまい、一方的なこちらの主張で終わってしまいます。問題を認識し改善してもらうという本来の目的を達成できません。
本人の主張を聞き終わった後で、改善を指示しましょう。

⑦感情的にならないよう注意する※

感情的になり怒鳴ったり、人格否定をするような発言などをして相手にパワハラと思われては絶対にいけません。また、相手に録音される可能性もあります。
そのため、録音されていても問題のないよう相手の主張も聞くミーティングの進め方をし、感情的にならずに淡々と行いましょう。

また、ミーティング主催者として録音しておくことをおすすめします。
相手が録音し、一部を切り出してパワハラを訴える可能性があるためです。
ミーティング全体の録音を持っていれば何かあっても会社としての正当性を示すことができます。

⑧会社として認められないことを結果で示す

これまで述べたようなきちんとしたステップを踏んだ上で、それでも改善が見られないようであれば、降格や減給といった給与や査定面での対応を行いましょう。
ここまでくれば、無視しても大丈夫と高をくくっていた問題社員も、合理的に考えて、改める方が良いとの判断にならざるを得ません。
これまで口頭では注意してきたけれど、そうした実際の強い対応はしてこなかったケースが多いでしょう。ですが、問題社員を放置することの方がはるかに会社としてマイナスの影響があります。
また、問題社員の放置は間違った文化形成にも繋がりかねません。


いかがでしたでしょうか?
コンピテンシーに反した言動をする、勤務態度が悪い問題社員がいた場合に、その人が周りに与える悪影響は無視できません。
厳しい対応は会社としての合意も得る必要がありますが、きちんとしたステップを踏むのであれば、給与や賞与の査定や降格等の対応は合理的であり認められます。
また、マネジャーがそうした言動を認めない姿勢を常に示し続けることは(一貫性)、本人が是正するしないに関わらず、他のメンバーからの信頼に大きく影響します。
問題社員を放置せず、会社の価値観やコンピテンシーに反する言動は認めない姿勢をマネジャーは貫かねばなりません。

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承認・称賛の文化醸成|メンバー同士で承認・称賛し合うチームの作り方

承認・称賛には、人間関係を良化させたり、仕事へのやりがいやモチベーションを高めるといった効果があります。チームメンバー同士で承認・称賛し合う文化づくりは、以下のような考えをお持ちの方に効果的です。

・マネジメント人数が多い(今後、多人数をマネジメントするキャリアを希望する)
・チームの人間関係の改善(メンバー同士のコミュニケーションを活性化したい)
・仕事へのやりがいやモチベーションを高め、チームとしての生産性を高めたい

今回は、マネジャー自身が承認・称賛を意識して実行できていることを前提として、承認・称賛の発展形であるチームメンバー同士で承認・称賛し合う文化醸成について解説します。

マネジャーがメンバーから信頼されることはマネジメントの土台です。
もし、マネジャー自身があまり承認・称賛していない場合は、まずは以下コラムを参考に実践をしてみてください。
承認・称賛とは?|部下のやる気を引き出す承認と称賛の使い方

承認・称賛の効果|人間関係を良化させ、仕事へのやりがいやモチベーションを高める

承認欲求は人の根源的な欲求であり、程度の違いはあれ、誰しも「他者から認められたい」という欲求を持っています。
承認・称賛は、メンバー1人1人の承認欲求を満たす行為であり、大きく2つの効果があります。

①人間関係を良化させる(信頼関係を築く)

「マネジメント」や「指導」という言葉を履き違え、ダメ出しや指摘ばかりしてしまうマネジャーやベテラン社員をよく見かけます。
本人は、相手の成長のためと思ってやっているのでしょうが、欠点や悪い点ばかり指摘するのは人の承認欲求に反したアプローチであり、相手には強いストレスが伝わり、人間関係や信頼を損なってしまう可能性が高いです。
人間関係や信頼関係を築くには、人の承認欲求を理解し、良い点は良いと認めることが大事です。

また、「挨拶をする」「名前を呼ぶ」「顔を見て話す」「返事をする」「感謝を伝える」なども軽視できません。
これらは存在承認と呼ばれるもので、承認欲求より低次の社会的欲求(帰属意識)に影響します。
挨拶しない、返事をしないなどは、相手を無視する行為になり、一緒に働く仲間という意識を持てなくなります。
テレワークなど顔を合わせる機会が減っている場合などは、チャットやテレビ会議なども活用して、帰属意識を持てる工夫をしていきましょう。

なお、人間関係や信頼関係は、1対1の関係性のため、メンバーも含めた全員が意識して実行していく必要があります。
マネジャーだけがメンバーに承認・称賛を行う場合、マネジャー自身は信頼関係が高まっていきますが、メンバー同士(先輩後輩など)で人間関係が悪いと、チームの一体感が生まれなくなってしまいます。
マネジャーだけでなく、チームメンバー同士で承認・称賛し合う文化を作っていくことが大事です。

②仕事へのやりがいやモチベーションを高める

仕事へのやりがいやモチベーションは、メンバーの価値観やキャリアを理解して目標設定を行う、目標を達成に導き達成感や高い評価につなげる、目的やゴールを明確にして仕事を任せる、挑戦的な業務を任せてスキルや能力を伸ばす、権限と責任を与え自己決定させる、フィードバックで気づきを与え内省を促す、承認・称賛で努力や行動を認める、など、非常に多くの要素が関係しています。
また、人それぞれの価値観やキャリアの考え方にも影響するため、一概にこれをすれば高まるといった特効薬のようなものはありませんが、承認・称賛は、やりがいを実感するタイミングになったり、内発的動機づけをするために必要な要素となります。

内発的動機づけは、人の内面に沸き起こる意欲による動機づけです。
評価や金銭、賞罰といった外発的動機づけと比べて、内発的動機づけは長続きすると言われています。
内発的動機づけには、「自律性」「有能感」「関係性」の3つが大事とされています。(自己決定理論)

  • 自律性:自分の行動を自分自身で決めること(↔︎やらされ感)
  • 有能感:自分は能力があって優れているという感覚(≒自信)
  • 関係性:他社との精神的な繋がり(≒相互信頼関係、一体感)

細かい進め方まで指示を出す、指摘やダメ出しばかりする行為は、自律性や有能感を感じにくくします。
一方、承認・称賛により、褒められた、認められたというのは有能感を高めます。また、自分の仕事ぶりをちゃんと見てくれている、自分の考え方を認めてくれていると伝わるため、関係性(信頼関係)も高まります。
このように、承認・称賛は、内発的動機づけに効果的で、仕事へのやりがいやモチベーションを高める効果があります。

メンバー同士の承認・称賛は効果的なのか?

承認・称賛の効果は、マネジャーかメンバーかという役職で変わるものではありません。
強いて言えば、信頼関係の深さが効果に影響します。
信頼する人の意見は素直に聞けるのに、信頼していない人の話は懐疑的に聞いたり、響かないのと一緒です。

人間関係を良化させる効果は、承認・称賛する人に対して好意をもつようになる心理(好意の返報性)なので、メンバー同士の人間関係改善やチームの一体感を作るには、メンバー同士で承認・称賛し合うことが重要です。
そうして、メンバー同士の信頼関係が高まっていけば、互いの承認・称賛で動機づけされ、やりがいやモチベーションを高め合う効果も見込めます。

マネジャー自身がメンバーを承認・称賛することはもちろん大切ですが、承認・称賛の頻度を高めたり、メンバーが増えた際に承認・称賛されないメンバーが出ないようにするためにも、メンバー同士の承認・称賛文化を作っていきましょう。
また、プレイングマネジャーとして自身がプレイヤーとして業務を行なっている場合や、テレワークなどでコミュニケーション頻度が減っている場合は、マネジャーのみの活動では限界があり、メンバー同士が承認・称賛し合う文化をつくることがチームワーク改善のカギになります。適切にメンバーを巻き込んでいきましょう。

承認・称賛文化の作り方

「文化」は、勝手に出来上がるのもではなく、意図して作り上げるものです。
承認・称賛の文化を作っていこうと思った時にぶつかる一番の壁は、組織の「慣性」です。
これまで互いに承認・称賛し合うということをしてこなかった組織では、しないことが当たり前となっており、力を加えない限りいきなり変わったりはしません。初めの動き出しのタイミングはエネルギーが必要ですが、承認・称賛し合う習慣さえつけてしまえば、それが当たり前になり、特に力をかけずとも承認・称賛し合うチームが出来上がります。
マネジャー自身がきっかけを作り、習慣化するまで継続させる方法を考えて実行していきましょう。

①マネジャー自身が率先垂範する

まず第一に、マネジャー自身が率先して承認・称賛を行うことです。
上司がやっていないのに、部下にやれというのはおかしな話です。まずは自分自身が率先して、褒める・認めるコミュニケーションを増やしていきましょう。
実際にやってみると、「褒めるポイントが見つからない」というマネジャーが意外と多いです。
メンバーも同じポイントで躓くことが想定されるため、自分が実践しておくと、メンバーにアドバイスできるようになるはずです。

②メンバーが承認・称賛する場づくり(習慣化させる)

メンバーに「承認・称賛をしよう」と伝えるだけだと、なかなか実行に移されません。これまで承認・称賛をしないのが当たり前だったので、「どんなことを褒めれば良いのか?」「こんな小さなことを褒めていいのだろうか?」とすぐに行動に移せないでしょう。
そのため、変化を生み出すために、最初は、全員が意識的に承認・称賛を行う場を作りましょう。

・朝礼やチームミーティング内で良い事例を共有し、承認・称賛する時間を設ける
・チームのチャットで、良い事例を共有し、他メンバーが反応する(いいね!やコメント)
・サンクスカードを用意し、良いと思ったその都度、相手に渡す
・「承認・称賛月間」「ありがとうキャンペーン」など、イベント化して意識づけを強化する

チーム内で影響力のあるメンバー(後輩指導をしている中堅や、ムードメーカーなど)に、目的や意図を伝えて巻き込み、自分以外からも承認・称賛が出るようにしておくと推進しやすくなります。依頼するメンバーを多くすると、責任が分散され、全員がやらなくなってしまうので、こうした慣性に逆らう変化を起こす際は、影響力あるメンバー1,2名を選定して協力を仰ぐのが得策です。

また、メンバーが行う承認・称賛に対して、マネジャーがリアクション(承認・称賛)するようにすると、行動が強化されます。習慣化するまでは、任せきりにせず、積極的に盛り上げるようにしてみてください。

③できない理由(言い訳)を事前に潰しこむ

よくあるできない理由は以下のようなものです。
・褒めるポイントが見つからない
・こんな小さなことでも褒めていいのか?という線引きで悩む
・褒め言葉を知らない(うまく褒められない)

褒めるポイントとしては、「結果承認」「プロセス承認」「行動承認」「意識承認」「存在承認」と5段階のレベルがあります。
結果が出てない場合でも、プロセス(過程)や行動、意識など何かしら良い点はあるはずです。
また、褒めるという言葉がハードル高く感じるようであれば、相手の良い点を率直に良いと伝える意識にすると承認・称賛しやすくなるかもしれません。
承認欲求は認められたいという欲求なので、「褒める」ではなく「認める」でも同様に効果があります。

また、こんな小さなことでも褒めていいのか?と、承認・称賛をとても高尚なものと捉えている場合もあります。
これは、慣れてきてから修正すれば良いので、最初はシンプルに、良いと思った行動や意識は全てOKと許容しましょう。

褒め言葉については、以下に褒め言葉集をまとめているので、参考にしてみてください。
メンバーを「褒める」スキル|マネジメントで使える褒め言葉集


いかがでしたでしょうか。
メンバー同士で承認・称賛し合う文化を作ることで、チームの関係性がよくなり、互いにやりがいやモチベーションを高め合う良いチームにしていくことができます。

マネジャーは自分の限られた時間を、うまく配分していくことが重要です。少人数のチームの場合は、自分自身が承認・称賛するだけでもうまく組織運営できているかもしれませんが、マネジメント人数が増えれば増えるほど、その方法では通用しなくなります。
メンバー同士が承認・称賛し合う文化を作り上げ、人数が増えてもマネジメントできる体制、強いチームを築いていきましょう。

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サイモン・シネックが語るリーダーシップ論|インスパイア型リーダー

リーダーシップ論

「WHYから始めよ」という言葉を聞いたことがある方は多いかもしれません。
世界的な人気組織コンサルタントであるサイモン・シネックが2009年にTEDで講演した「How great leaders inspire action」というリーダーシップ論から生まれたこの言葉は、世界中で有名になりました。動画の再生回数は4000万回を超え、TEDの歴代3位の再生回数を誇ります。

参考 ▶サイモン シネック: 優れたリーダーはどうやって行動を促すか(日本語訳付き)


What(何)でもHow(どうやって)でもなく、Why(なぜ)を伝えることが人を動かすために、もっとも重要であり、優れたリーダーはそうやって人々をインスパイアする。「Why(なぜ)」やるのか、目的の共有無くしては人々を先導することができない。
今では多くの日本の研修会社がリーダーシップ研修でこの話を引用し、あるいはTEDの動画を流し、利用しています。
そんなリーダーシップ論に多大な影響を与えたサイモン・シネックが、リーダーシップをより分かりやすく説明するため、絵本としてまとめたのが、今回ご紹介する『TOGETHER IS BETTER(邦題:一緒にいたいと思われるリーダーになる)』です。

リーダーシップとはいったい何なのか?そしてリーダーはどうあるべきなのか?第一人者であるサイモン・シネックが考えるリーダーに対するひとつの答えが、本書にはまとめられています。
これからリーダーを目指す人、自分のリーダーシップのあり方に限界を感じている人、より良いリーダーに変わりたいと考えている人、そうした方々にとって非常に学びがある内容になっています。

今回は、旧来の日本型リーダーとは大きく異なる、インスパイア型リーダーとは何か、またマネジャーに必要なリーダーとしての考え方について、書籍の印象的な文章をご紹介しながら考えます。

リーダーシップとは

リーダーシップとは、責任や権限といったことではない。
自分の部下である人たちをどう思いやるかということなんだ。

リーダーシップとは、争って勝ち取る階級や地位のことではない。
リーダーシップとは、仲間のために奉仕することを言う。

「上司」とは、ただの呼び名だ。
「リーダー」には、仲間がいる

引用:『一緒にいたいと思われるリーダーになる』サイモン・シネック著

リーダーと上司とは似て非なるものです。昇進したから自分はリーダーだと考える人がいます。しかし、それは違います。

上司は、上司本人の態度やメンバーからの信頼は関係なく、会社によって指定され勝手になるものです。
しかし、リーダーはメンバーのために奉仕し、メンバーから信頼を得なければなりません。
今の時代のマネジャーに求められているのは、上司ではなくリーダーです。

リーダーと上司は異なる

残念なリーダーの下で働いていると、会社のために働いている気分になる。
よいリーダーと一緒に働いていると、みんながお互いのために働いていると感じる。

チームに仕事を命令するだけでは、「労働者のトップ」にすぎない。
チームを信頼して仕事を任せてはじめて「リーダー」になれる。

引用:『一緒にいたいと思われるリーダーになる』サイモン・シネック著

労働者のトップとリーダーは異なります。労働者のトップは誰でもなれますが、チームをインスパイア(鼓舞)するリーダーになるためには努力が必要です。

リーダーが持つべきスタンス

リーダーは、挑戦して失敗する機会を仲間に与える。
そのあとで、もう一回挑戦して成功する機会を仲間に与える。

引用:『一緒にいたいと思われるリーダーになる』サイモン・シネック著

部下に仕事を任せられない、細かく口出ししてしまう上司は多いです。現実問題ミスが許されない仕事もありますが、部下を成長させることができるリーダーは皆権限委譲がとてもうまいです。

分からないことがあったら、声に出して聞いてみよう。
そうすれば、答えを知っている誰かが、助けの手を差しのべてくれるかもしれない。

引用:『一緒にいたいと思われるリーダーになる』サイモン・シネック著

リーダーは完璧で何もかも知っている必要はありません。うまく周りに頼ることも必要です。部下に弱みを見せられないと考えている上司の方もいらっしゃいますが、そんなことはありません。部下の方が詳しい分野があっても良いのです。部下がリーダーを助けようと思える方が強いチームです。
ただし、助けを求めることと怠慢は異なります。
Zoom等でのTV会議のセッティングをいつまで経っても覚えようとせず、カメラの前に座り毎回部下にやらせている方をたまに見かけますが(これでは時間の節約にもならないし2名分の時間を浪費するだけ)、こうした学ぼうとしない姿勢は厳禁です。これはリーダーの怠慢です。
自分でも出来るけど、時間がない、会議室に入るのがギリギリになるため、それまでに同席する部下に準備してもらっている。これなら合理的な判断であり問題ありません。

残念なリーダーは誰が正しいかを気にする。
よいリーダーは、どの意見が正しいかを気にする。

引用:『一緒にいたいと思われるリーダーになる』サイモン・シネック著

発言者が誰かを気にする方がいらっしゃいますが、経験や年齢に関係なく、大切なのは意見の中身です。
この姿勢がないリーダーは周りから信頼されませんし、チームから意見が生まれなくなります。

何と戦うかがわかれば、変革を起こすことができる。
でも、信念がないと、変革は長続きしない。

引用:『一緒にいたいと思われるリーダーになる』サイモン・シネック著

耳が痛い言葉が並びますね。これらを全て実現できているマネジャーの方が少数でしょう。
信念は目的と言い換えても良いかもしれません。何か変えようと思った際には、マネジャーが信念や目的を持つだけでなく、メンバーにも目的を共有し共感してもらわないと、変革は続きません。

よいリーダーは、部下を奮い立たせ、リーダーの能力を信頼させるだけではない。
素晴らしいリーダーは、さらに部下が自分自身の能力に自信を持てるように奮い立たせてくれる。

引用:『一緒にいたいと思われるリーダーになる』サイモン・シネック著

上司として何かを言わなければ、と何でもかんでも指摘する方がいらっしゃいます。ポジティブな変化で応援したいことであっても、小言のような指摘を上から目線でしてしまう。こうしたことをマネジメントと勘違いされている方は非常に多いです。
承認・称賛し、応援することもマネジメントです。良いリーダーは、部下のやる気を引き出すポジティブな言い回しでのフィードバックを行います。
また、大差がなければ常に部下の意見を採用し、部下が自信を持てるようにします。

チームとは?

残念なチームは、同じ場所にいるというだけだ。
良いチームは、一緒に働いている。

一緒に働いているだけでは、まだチームとは言えない。
お互いを信頼してはじめて、チームと言うことができる。

チームとしてどれだけ素晴らしいことができるか。
それは、チームとしてどれだけ結束できるかにかかっている。

引用:『一緒にいたいと思われるリーダーになる』サイモン・シネック著

抽象的ではありますが、チームってなんだろう?そんなモヤッとした疑問に、答えてくれる言葉です。
もしまだチームでないと感じても問題ありません。今からチームになるための行動をリーダーが取ればいいのです。

リーダーは与える側だけではない

リーダーシップとは学ぶことから生まれる。
そして、最高のリーダーは、自分のことを、教師ではなく生徒だと思っている。

引用:『一緒にいたいと思われるリーダーになる』サイモン・シネック著

リーダーになっても学ぶことはたくさんあります。与える側だという固まった考え方は捨てましょう。
リーダーシップは学ぶことが沢山あり、また学ぶ姿勢からリーダーシップは生まれます。

知性に訴えて、納得させることはできる。
でも、心を動かさなければ、信頼は勝ち取れない。

引用:『一緒にいたいと思われるリーダーになる』サイモン・シネック著

ロジカルで正しいことで納得させることはできます。
ですが、感情を無視しては共感や信頼は得られません。
筋が通っている、合理的であることはもちろん必要ですが、リーダーはメンバーの感情にも常に配慮しなければなりません。


いかがでしたでしょうか?
サイモン・シネックが伝えるリーダーやチームに関する言葉は、とても汎用性の高い重要な考え方だと思います。
今回取り上げた内容と逆のことをしてしまっている方は、ぜひ自分の言動を見直してみてください。

サイモン・シネックは、「誰もがリーダーになれる力を持っているが、誰もがなりたいわけではないし、また、なるべきでもない」と述べています。
リーダーになるためには、努力が必要です。
チームのメンバーが活躍することによって、あなたが喜びを感じ、奮い立つことができれば、あなたはもっとチームのメンバーを奮い立たせることができる。
この良きサイクルこそが、サイモン・シネックが語るインスパイア型リーダーシップであり、今多くの企業で求められているリーダーシップの在り方と言えるでしょう。

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マネジメントにおける認知的不協和|部下の不満はこうして生まれる

認知的不協和とは社会心理学の用語です。
マネジメントは人を扱うので、人の心理的な傾向を知っておくことはとても役に立ちます。

人は見たいものを見る、人は一度決めたらそれを正当化させようとする、といったことはよく言われる言葉ですが、今回は、そうした人の性質・傾向を表す「認知的不協和理論」について解説します。
管理職はなぜ評価の伝達で丁寧に説明しなければならないのか、なぜ新しい仕事にうまく適応できない部下をサポートしなければならないのか、といったマネジメントにおける具体例を交えながら解説しますので、ぜひ参考にしてみてください。

認知的不協和理論とは|人は矛盾を抱えたとしても自分の判断を正当化しようとする

認知的不協和

認知的不協和とは、自分の認知(感情や思考・行動)とは矛盾した認知を抱えた状態のことを指す、社会心理学の用語です。

認知的不協和理論とは、不協和が生じている時に感じる不安や不快感を解消するために、自身の認知の定義を変更したり、過小評価したり、自身の考えや行動を変更することで、つじつまを合わせ正当化する心理をいいます。米国の心理学者レオン・フェスティンガーにより提唱されました。

端的にまとめると、人は不協和を抱えると、下記のような心理的な変化が起こるということです。

AとBの間に不協和が存在する場合、一方の認知を変化させることによって不協和な状態を減少させる、または解消させようとする。
そして、認知的不協和の度合いが大きければ、大きいほど、不協和を低減させる力も応じて大きくなります。

● 具体的な例:喫煙者の不協和

ある喫煙者Aがいたとします。その人の認知は下記のようなものです。
・認知1:私はタバコを吸う

そこに、喫煙者は肺がんになりやすいという新しい認知を得たとします。
・認知2:喫煙者は肺がんになりやすく寿命が短くなる

この場合、下記のように認知を変更すれば、死への恐怖や不安を和らげることができます。
・認知3:私はタバコをやめる

しかし、ことはそう簡単にはいきません。Aはタバコによるニコチン依存となっているため、禁煙には苦痛が伴います。すると、Aは自分にとって都合の良い別の認知(認知4、認知5、認知6)を持ち出し、喫煙による死への恐怖や不安を和らげ、喫煙を正当化してしまうのです。
・認知4:喫煙者でも長寿の人はいる
・認知5:肺がんよりも、前立腺がんや乳がんの方が発生確率は高い
・認知6:ストレスは病気の原因であり、タバコをやめるストレスの方が危険だ

マネジメントにおける認知的不協和|評価面談を軽視する管理職に良いマネジャーはいない

・部下が評価に納得できない場合

そもそも、自己評価は他者評価に比べて高くなる傾向「レイク・ウォビゴン効果 (平均以上効果)」があり、自己評価と上司からの評価は不協和(自己評価に比べ上司評価の方が低い)がとても生じやすいです。
マネトレ利用ユーザーにおいても、「目標設定」と「評価」の納得度を比べると、9割の組織で「評価」の方が納得度が低くなります(=目標設定の方が納得度が高くなる)。

評価の伝達において、上司が丁寧なコミュニケーションを取らない場合はどうなるでしょうか?
部下は「上司は全然自分の仕事ぶりを見てくれていない」「Bさんをえこひいきしている」「私が嫌われていて不当な扱いを受けている」「上司は無能だ」といった、新しい認知を持ち出し、自分に対する自己評価を正当化させようとします。

人は、そうすることが心理学的に普通であり、素直に納得できることの方が難しく、また少ないのです。
ですから、評価面談を適当に行ったり、評価面談を実施しないことは、部下の不満だけでなく、上司に対する否定にも繋がるため、百害あって一利なしです。
評価面談を適当にする上司で、良い上司というのは存在しません。もしあなたがそうなら今すぐ見直しましょう。

・新しい仕事にうまく適応できない場合

新入社員に限らず、異動や転職等で新しい仕事を任された時、うまくいかないケースは頻繁に発生します。
こうしたケースで、本人の自己認知では一生懸命やっていた場合、うまくいかず適切なサポートが受けられないと下記のような別の認知を持ち出し、自身を正当化しようとしてしまいます。

「上司が業務支援をしてくれないからだ」「先輩が教えてくれないからだ」と誰かの原因であるとしたり、「新しい仕事に慣れるのは大変だからすぐにできなくても仕方ない」と自分を納得させたり、不快感を解消しようとします。

このケースはよく他責とも言われますが、人は誰しもそうした間違った方向に流されやすい生き物です。
マネジャーは、そうした人の特性を理解した上で部下とコミュニケーションを取り、部下が認知的不協和から都合の良い認知をつくり、間違った方向に進んでしまわないよう、適切にサポートする必要があるのです。

認知的不協和が起こっている際のマネジメント

認知的不協和を解消するには、2つの方法があります。

  1. 「新しい認知」を受け入れる
  2. 都合の良い認知に、さらに別の「新しい認知」を追加する

部下自身が自身の認知に不協和を抱えた状態の場合、早期のフォローであれば、本人が新しい認知をもって正当化する前に、部下が抱える矛盾を解消し、「新しい認知」を受け入れられるようにサポートすべきです。
また、本人が不協和を解消するために、既に自分にとって都合の良い別の認知を追加しているような場合は「さらに新しい認知」を追加することで、言動の是正を促します。

どちらの場合も、マネジャーには丁寧なコミュニケーションが求められます。
後者の方が、時間がかかり、新しい認知を受け入れるのは本人にとってストレスが伴います。ある程度時間がかかるものと思って、粘り強くコミュニケーションを取っていきましょう。
少ない時間でも毎週の1on1などで部下と対話することは、こうした不協和の発生に対し、早い段階でタイムリーにフォローすることができるためとても効果的です。
時間がないと対話の時間を削るマネジャーも多いですが、こうした時間の投資は問題の発生を未然に防ぎ、部下の成長にも繋がるため、広い観点で見るとマネジメントの大幅な効率化にも繋がります。
マネジャーが部下との対話の時間を削るという選択は、対処療法であり根本的な解決には繋がらないため、いつまでたっても忙しい状態は解決されないことを認識すべきでしょう。


いかがでしたでしょうか?
認知的不協和理論はなさまざまな分野で利用されていますが、今回はマネジメントに特化して解説しました。
人にはこうした特性があると分かることで、マネジメントする際の心理的な負荷低減や、マネジメント方法の改善に活かせると思います。
今回取り上げた事例で思い当たることがある方は、ぜひ改善に取り組んでみてください。