「節目」の活用|年始や年度始めなどの節目を使ってチームに変化を生み出す
「節目」の活用|年始や年度始めなどの節目を使ってチームに変化を生み出す

現状維持バイアスの乗り越え方|「節目」を活かしてチームに変化を生み出す

より良い組織にしたいと思っているが、なかなか思うように変わらない。
変化に対して、頑なに拒むメンバーがいる。
マネトレコーチに、このような悩みを相談いただくことがよくあります。

こうした変化への抵抗は多くの組織で当たり前に起こる反応であり、マネジャーは当然に抵抗が発生すると認識して、あらかじめ計画に折り込む必要があります。
今回は、変化への抵抗が発生する要因を解説し、チームに変化を生み出す方法の1つとして、年始や年度始めといった「節目」の活用法をご紹介します。

職場には変化を妨げる力学がはたらいている

合理的に考えると変化した方がいいのに、なぜか組織は変わらない。
一度はこのように感じた経験があるのではないでしょうか。

経営学では、組織がなかなか変革できないことを、比喩的に「組織の慣性」(organizational inertia)といいます。
物理学の慣性(静止している物体は、外部から力を加えられない限り、静止状態を続ける)と同じように、人や組織にも慣性が働きます。
別のものに切り替える十分な理由がない限り、というより切り替える十分な理由があるにも関わらず、人はすでに在る状態や、持っているものに固執するのです。

組織の変化を妨げる要因について、過去には「人はたいして変われない」「30か35歳くらいには人は完成し成長が止まる」と思われている時代もありました。
しかし、今は数々の研究結果から、「人の脳には生涯を通じて適応を続ける能力が備わっている」ことが分かっています。
つまり、成長が止まり変化できなくなるという肉体的な理由ではなく、「変化したくない」という感情的な作用により、変化が妨げられているのです。

以下で、変化を妨げる力学として、合理的な理由である「移行コスト」と、人の感情に起因する非合理的な「現状維持バイアス」について解説します。

移行コスト|変化には時間や労力がかかる

移行コストとは、現状から新しいものに移行する際に発生するコスト(金銭、時間、労力)のことです。
変化により得られる利益より、移行コストが大きい場合は、合理的に考えても変化しない方が良いという判断になります。

移行コストを考慮していない/見積もりが甘いことが原因で変化が拒まれているケースも少なくありません。
簡単に移行できると思っていたが、実は影響範囲が大きく、業務システムや他部署にも影響が及ぶなど、マネジャーから見えていないコストがある場合もあります。
メンバーにヒアリングするなどして、きちんと移行コストを見積もった上で進めるのが賢明です。

また、変化させる理由や変化により見込まれる利益の説明が不十分な場合、変化させることのメリットが正しく伝わらず、メンバーが持つ情報で判断すると移行コストの方が高いとなる場合もあります。

メンバーとのコミュニケーションが少ない組織や、テレワークなどでコミュニケーションが減った際に起こりやすいので、注意しましょう。

現状維持バイアス|人は現状のままであることを好む

現状のままであることを好む傾向は、経済学者のウィリアム・サミュエルソンとリチャード・ゼックハウザーにより「現状維持バイアス」(status quo bias)として提唱され、広く知られています。

現状維持バイアス

たとえ有益であったとしても、知らないものや経験したことのないものを受け入れることに心理的な抵抗が生じ、現在の状況に固執してしまう心理傾向(バイアス)

同じ職場で長く仕事をしているメンバーには、「何かを変化させることによって得られるメリット」より、「現状維持することのメリット」を高く見積もってしまうというバイアスがかかります。
現状維持バイアスはあらゆる場面で作用しており、マネジャーが組織をより良くするために何か変化を生み出そうとする場合でも、抵抗や反発が生まれてしまいます。

現状維持バイアスに陥る背景としては、以下のような心理特性が影響していると言われています。

①損失回避|利益より損失の方が大きく感じる

不確実性下における意思決定モデルの1つである、プロスペクト理論が有名です。
人は、損失を目の前にすると、損失そのものを回避しようとする傾向(損失回避性)があり、利益より損失の方が大きく感じるという理論です。
ここでの損失は、金銭だけではなく時間や労力を含み、また今後発生することが見込まれる潜在的な損失も含みます。

メンバーには、慣れ親しんだやり方が染み付いており、それを変化させることはメンバーにとって潜在的な損失となります。
また、損失を大きく感じる傾向があるため、マネジャーが工数以上にメリットが大きいと考えていたとしても、メンバーには工数の方が大きく感じられていることも多々あります。
マネジャーやリーダーへの昇格など強制的に視座を高めることを求められる場合を除いて、メンバーが俯瞰的な視野を持つようになることは稀です。
そのため、たとえ会社や組織のために必要な変化だとしても、変化には大きなエネルギーが必要なため、メンバーの視座ではできる限り現状を維持したいという思考になってしまうのです。

②埋没費用|かけた時間や労力がもったいないと感じる

埋没費用(サンクコスト)は、すでに発生したコスト(金銭、時間、労力)のうち、将来回収できる見込みのないコストのことです。
自分の時間や労力を注ぎ込んだという事実から「もったいない」「元を取らないと」「損したくない」という感情を持ち、意思決定の際に合理的な判断を歪める場合があります。
これから起こしたい変化により、メンバーが力を注いで作り上げたものが廃止となる場合や、十分な成果が出る前に中止や方向転換をする場合は、埋没費用をもったいないと感じるメンバーから反発が起きる可能性が高いです。

③単純接触効果|慣れ親しんだものを好む

人は、経験していない事・よく知らない事・不確実なことに不安を感じます。
そのため、前例があるものや慣れ親しんだものを好む傾向があります。
また、繰り返し接すると好意度や印象が高まるという心理的な傾向もあり、単純接触効果と言います。

現状維持バイアスを乗り越える方法

現状維持バイアスは、人が元来持つ心理傾向であり、取り除くことはできません。
そのため、マネジャーは、現状維持バイアスの存在を理解し、存在する前提であらかじめ対処法を計画に盛り込むことが必要です。

現状維持バイアスを乗り越えるために不可欠なのは、なぜ変化させるのか、その変化で何が得られる(回避できる)のかをメンバーにきちんと伝えることです。
この説明を怠ると、変化により得られる効果が理解できず、「マネジャーが楽をするための変化では?」「無駄な工数が増えるだけ」「忙しいのにまた仕事が増えた」といったマイナスの印象だけ与え、逆効果になってしまうことが少なくありません。

  • 何のために変化させるのか、目的や意図をきちんと説明する
  • 変化させることで、メンバーが得られる利益、将来回避できる損失を伝える
  • 変化に伴う、メンバーの負担増が少ない/一時的に負荷が増えるが中長期で楽になることを伝える
  • バイアスで歪んで捉えられないよう、数字やデータを用い、客観的に課題やメリットを提示する
  • 小さなことから取り組む/簡単にできそうなことから徐々に大きな変化に繋げる
  • 変化を起こした場合に感じるリスクを洗い出し、リスクを回避する方法を考え共有する(必要以上に感じてしまう漠然とした不安を解消する)
  • 変化に頑なに抵抗するメンバーがいれば個別対話する/相手の反発する理由(メンバーが持つ物語)を聴く

会社や組織の都合だけでなく、メンバー視点で、客観的に分かりやすくメンバーに理解される説明を心がけましょう。
「メンバーにとってこんなメリットがある」、「こういう理由で会社や組織にとって必要不可欠。メンバーにとってもそこまで負担が大きくない」など、メンバーの視点からでも納得できる伝え方ができれば、現状維持バイアスを緩和することが可能です。

また、変化を起こす上で不安に感じる点を事前に洗い出し、対策を講じることも有効です。人は未知のものに漠然とした大きな不安を抱くので、メンバーに起こりうるリスクを明示し、そのリスクに対処する方法も考えてあることを共有すれば、不安を限定することができます。

小さなことから徐々に変化を起こしていくステップを考えることも有効です。現状維持バイアスはとても強固なため、一気に大きな変化を起こそうとしても大概うまくいきません。
抵抗の少ない小さな行動や言動の一つひとつから変えていくことで、中長期で大きな変革に繋げていくことが可能になります。

節目の効果|心機一転がんばろうと思えるタイミング

新しいことを始めてみよう!と思うタイミングといえば、いつでしょうか?
まず年始や年度の変わり目を思い浮かべ、次いで四半期の始まりや、組織変更や異動の直後などをイメージされる方が多いかと思います。
明確な論拠はないのですが、正月の書き初めや、4月の入学式やクラス替えなど、様々な「節目」を意識させる行事があり、そのタイミングで目標を立てる経験をしてきたことから、節目を迎えると心機一転頑張ろうと思う人が多いのではないかと思います。

現状維持バイアスにより変化を拒むメンバーが多くなる傾向がある中で、「節目」は唯一といって良いほど希少な、メンバーを「変化してみよう」というポジティブな心持ちにさせることができる機会です。
とはいえ、何も働きかけずに、メンバーの意識が勝手に変わってくれるわけではありません。マネジャー自身がチームの目標を掲げてメンバーに伝えたり、メンバーにも同様に次の節目までの目標を立ててもらうことで、節目を意識させ、節目ごとに変化を促す土台を作ることができます。

変化を生み出せるマネジャーは、会社の目標設定や評価が年に1回だとしても、四半期の区切りやプロジェクトの切れ目など、自ら「節目」を増やしてそのタイミングで変化を作り出しています。
人は感情の生き物なので、こうした人の心理をある程度理解しておくとマネジメントにも活かせるのです。

節目のようにポジティブに心理が働く場合は、ぜひそのタイミングを逃さず活用しましょう。追い風となり、変化を起こしやすくしてくれます。
逆に、現状維持バイアスのようにマイナスに心理が働く場合は、逆風の中で変化を起こそうとしているような状態です。同じ変化を起こすのにも大きなパワーを必要とします。

マネジメントでは、強い逆風の中でも走らないといけない場面も多々あります。その際は、ポジティブな心理で逆風を弱めて進めることで、変化を生み出しやすくできます。
節目を活用したマネジメントをスタートさせてみてはいかがでしょうか。

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